山梨大学眼科での20年の経験を生かし、緑内障外来、小児眼科、眼鏡コンタクト処方など、甲府昭和中央市地域の医療に貢献いたします。

〒409-3864 山梨県中巨摩郡昭和町押越70-1

<診療時間のご案内>
平日:8:30~12:00、14:30~18:00
土曜日:9:00~12:30 (午後休診)

ご予約・お問合せはこちら

055-268-7766

相対性幸福論3 (幸本位経済学)

新年恒例のテレビ番組に「芸能人格付チェック」という番組がある。
高級品と偽者が見分けられなければ、その都度それぞれの人の格付が下がるという趣向だ。

今年も総額約23億円の弦楽器の演奏と25万円の練習用楽器の演奏を聞き分けられなかった音楽関係者が笑い者になっていた。因みに私は聞き分けられたが、約半数の人は間違えたので、難しい事は事実だ。しかし価格差約1万倍である。3万円の鯛と300円のティラピアの味が区別できないよりもショックは大きいようである。だが、全ての人がだまされているのは、お金に対する考え方だ。

ものの値段は物事を比較検討する最も良い尺度で有ると考えており、お金に振り回されているのである。良くも悪くも幸福に大きく影響する「お金」について論じよう。

ビジネスクラス症候群

海外旅行で長時間飛行機に乗るとき、エコノミークラスの狭い座席で長時間同じ姿勢をとると、血栓を生じ肺塞栓症をきたす。これをエコノミークラス症候群と呼び、広く知られている。

私は近年、多数の航空機利用によりビジネスクラス症候群(BCS)が存在する事を発見した。症状は、度重なるビジネスクラス利用により、二度とエコノミークラスに乗れなくなり、ビジネスクラスでなければ渡航できなくなる、難治性の病である。医者自身が罹る事があるが、国立大学ではめったに見かけない疾患である。

通常、教授クラスでは罹らず、病院長・副学長以上で罹るが、講師クラスでも研究費の豊富な羽振りの良い者は罹患する。リスクファクターとして、実家や奥さんが開業医であったりすると、かかり易い様である。
他の症状としては、すぐにタクシーを使う、外車を買う等の症状があり、早期診断が可能である。

不知(不治ではない)の病

ビジネスクラス症候群が更に進行するとファーストクラス症候群(FCS)になる。
こうなると物事は全て最上級でないと、気が済まなくなり、金銭感覚は麻痺する。それだけの財力があれば問題ないが、1試合で何億と稼ぐボクサーでも、この疾患に罹り、破産した例はある。

これらの疾患はまた一般には知られていないが、有病率は高く、皆さんの周りにも思い当たる人が居るであろう。

変動するお金の価値

原油価格の値上がりに端を発し、多くの物が値上がりしている。物価が変動する事は、良く知られているが、お金の価値が激しく変動する事は、あまり認識されていない。ここでいうお金の価値は為替レートの事ではない。お金の物に対する価値、即ち物価の逆である。

豊富な資金を持つ人にとってお金はあまり価値の無いものであり、多少の料金の差であれば、狭い座席より広い座席を選ぶのである。演奏家が1億円払ってでも欲しい楽器が、食糧難で苦しむ人には、100円でも要らないという事になるのである。

key point:

お金の価値は人や状況によって大きく異なる。物の値段はどれだけ病気の人(BCS,FCS)が吊り上げたかによって変動し、本当の価値を示すものではない。

消えたお金

アメリカの同時多発テロで世界貿易センタービルが攻撃を受けた。
アメリカの被害は甚大であった。しかし、被害を受けたのは米国だけでない、日本も大きな被害を受けた。その額20兆円。ビルがいくつ建つ額か計算できない程である。

しかし、日本のビルが壊されたわけではない。その被害とは株価の急落である。「また、株価は戻るから、、、」そう言って平静を取り繕っているが、戻らない分のお金はいったいどこへ消えてしまったのだろう?お金って何なんだろう?実はお金等の有価証券は実体の無いものであることを説明しよう。

銀本位制度

通貨が出来る以前は物々交換であり、やがて保存の効く貝殻・石・金属が通貨の役目をするようになる。鋳造技術の発達と共に貨幣が流通し、銀何グラムかは、はかりで測らずとも貨幣何枚かで計算できるようになる。海外との貿易も明治初期は銀が基準であった。後に、銀本位制度から金本位制度に移行し通貨にも金(Gold)が使用された。つまり通貨その物にも貴金属としての価値があったのである。

しかし、あまりに高価なため幾つかの問題があった。一つは持ち運ぶ時の盗難であり、もう一つは貨幣の偽造であった。そこで商人は手形を発明し、知り合い同士のやり取りで金を動かさず、覚書を交わすようになる。また、政府は兌換紙幣(いつでも銀行で額面の金と取り替えますと保障した紙幣)を発明し、後に普通の紙幣へと移行する。これらは一つの大きな変革であった。貨幣といえども物々交換の原則であったものが、お互い(人対人,人対国、国対国)の信頼の元に貸し借りの関係に変わったのである。つまり、敗戦後の混乱時でもなければ紙幣は国が保証してくれるので安心して交換できるのである。従って逆に、政情不安定な国では、お金は信用できないから地金金にして蓄財しようという発想になるのである。現在の日本では信頼性の向上から、電子マネーが発明され紙幣さえ消えつつある。即ち、次のポイントが言える。

key point:

今のお金に絶対的な価値は無く、平和・信頼の元に成り立っている借用証書みたいな物である。  

ババ抜きのジョーカー

相対性幸福論2で述べたように、国・個人のレベルでいろいろな混乱は常に起こりうるのである。即ち、現在の通貨の基礎になっている平和や信頼が崩れた時、ただでさえ変動するお金の価値は、根底から崩れるのである。それではお金は要らないのか?

分かり易く例を挙げるなら「ババ抜きのジョーカー」という事が出来る。ジョーカー(お金)が有った方がゲームをコントロールでき、安心していられるが、最後まで持っていると負けてしまう。他にも例え様が有るかも知れないが、ある一面は理解できるであろう。
結局、お金はどれだけ貯めたかではなく、何を買った・何に使った(何を得た)が重要なのである。

幸本位制度

「安月給なのに、良くあんな高いものを買ったな。」と時々、疑問に思う事があろう。
このような人間の経済活動は“お金が減る不幸”と“欲しかった商品が得られる幸せ”を天秤にかけて行われているのである。この場合の幸せは、更に二次的に「夢に近づく幸せ」「家族が喜ぶ幸せ」等、新たな幸せを派生する事もある。

人はそれらをトータルして判断し、行動している。傍からは理解できない行動も、本人にとっての“幸本位”からすれば、理解可能であり、例えビジネスクラス症候群でも、幸本位で経済観念がしっかりしていれば問題ないのである。
逆に、傍からは理解し易い様な、お金本位の行動は結局、お金に振り回されて、大事なものを見失い、不幸になることさえある。お金を基準にしている人は要注意である。

開業

私はこの5月に大学近くで開業する。
安月給に耐え、研究を奨励していた私が開業する事で、梯子を外された気分に成った者も居るであろう。だが、私の考えは相対性幸福論1以来変わらない。大学には定員というものがあり、増やす事は出来ない。私も、いつまでも同じポストに居座るわけにはいかない。別の部署の助教授選に出て大学に残る道も有る。

しかし、地位や給料のためにしたくない仕事をするのはあまり幸せではない。残り長くない人生、やはり私は眼科の仕事がしたい。そこで、最も長く医局に関わり、大学を支えていく手段を考えついた。それは、大学を辞め、近くで開業し、非常勤として大学に来る事である。だから、大学での緑内障外来診療は続ける、研究も続ける、学会発表も続ける、同門会(同窓会)の仕事も続ける。ほとんど今と変わりない。変わるのは、面倒な報告書を大学に出さなくてよくなる事位であろうか。大学に有る眼科の9つの診察室をそれ以上増やせないが、自費で私が10番目の診察室を作ったと思って頂きたい。

埼玉出身の私は、人口の多い埼玉で開業した方が、金銭的には裕福に成れるであろう。山梨は人口が少なく、診療圏調査で予想される患者数は一日11~17人である。かなり厳しい。それでも潰れない程度に細々とやって行ければ幸せであろう。同門会会員の皆様方には是非ご支援の程、宜しく御願いしたく思う次第であります。

来年も、続きが書けることを願いつつ、筆をおきます。